平家工房は、
失敗から生まれました。

平家研究家 桧垣幸夫

後悔

以前、私がある住宅会社に在籍していた頃、担当させていただいたお客様の家を売却するお手伝いをしました。当時、お客様のご希望に沿った家にするためには、少し無理して住宅ローンを組む必要がありました。その後、共働きでローンを一緒に払っていらっしゃいましたが、ご主人の転職等もあり当初より収入はかなり減っておられたとの事です。そして、子供が巣立ったのを期に奥さまは家を出て行かれたそうです。共働きの収入で計画していた住宅ローンの返済は、当然ご主人ひとりでは困難になり、売却するに至ったのです。私はひどく自責の念に駆られ、後悔しました。
住宅ローンはほとんどの場合、人が働ける期間以上に一生縛り付けるもの。いくらお客様のご希望であったとは言え、私は無理な返済計画をご提案した。私は、本当にお客様の幸せを考えていたか。住宅会社の営業としてとにかく買ってもらえればいいという気持ちは無かったか、と。

売るための家

ある日、徳山(現周南市)から山口に転勤になりました。
取り掛かった大型団地は、販売開始当初からテレビ・ラジオ・新聞にチラシと広告費をつぎ込み、大手住宅メーカー数社と共同で販売したにも関わらず殆ど売れず5年が経過していました。急な坂はあるし、販売価格は相場を無視したような高い価格設定、しかもスーパーや学校は遠く、車が無ければ大変不便な場所なのです。買っていただいたお客様は、この地区に縁のある方で、少々高くても不便でもその地域から余り離れられない方です。
そこで「アパートに住んでいる方で、小さな家でもいいから家賃と変わらない支払いなら買いたい方」におすすめしてはと考えました。
また一番の問題である価格を下げるため、建物はコンパクトな総二階の小さな家に挑戦しました。しかし総二階の小さな建物はどうしても見劣りするので、外観にアクセントを付けるなど様々な工夫をしました。その結果かっこいい家に仕上げることができ、数件お客様に建てていただきました。
コンパクトながらもかっこいい総二階の家。一見するといい家に見えます。しかし、私は悔やんでいました。一階の間取りはリビングと水回りのみ、他の居室はすべて二階。まず家族が1・2階で分断されます。そしてそれをつなぐ階段は老後の生活に負担になることは明確なのです。お客様に喜んでいただきたいと言いながら、また、売るための家を造ってしまったのです。

ゆとりのある家

模索の日々を送る中、ふと“平屋”という文字が頭の隅に浮かんできました。その当時は新築住宅と言えば二階建て、平屋の選択など考えられない時代です。
「そうだ!平屋にすれば階段や廊下が要らなくなり小さくなる。何と言っても予算が抑えられる」と、それから私は夢中で間取りや外観を研究し、納得のいくプランが出来上がりました。
早速広告を打つと、シングルマザーのお客様に「この平屋、お願いします」と直ぐにおっしゃって頂けたのです。私は予算を抑えることで平屋を思いついたのですが、本当は平屋しか考えていない人がいたのです。他にも夫婦二人だけや体に障害がある方に建てていただきました。
そうしているうちに若い夫婦にも建てていただけるようになってきました。若い夫婦の実家は二階建てがほとんどです。自分達が出て行った二階の部屋は、荷物置き場にしか使われていないのを見ています。両親も歳を取るにつれ二階には上がらなくなるだろうとも思っているのです。広告を見て、今の賃貸よりも広く使いやすそうだし、何と言っても支払いは家賃並みです。これなら無理することなくマイホームが持て、今まで通り趣味や家族との旅行などゆとりを持った生活を送ることができると考える若い人たちが出てきたのです。
大手住宅会社で建てた人の話を聞くと、住宅ローンを4000万円組み、毎月十数万円の返済をしているとの事です。これでは住宅ローンのためだけに働き続けることになり、家族との思い出作りにお金は使えません。
もうこれ以上住宅ローンで家族の時間を奪う家つくりはしません。 一生で一番大きな買い物のマイホーム。我々住宅会社は、そこに住む人の人生に寄り添って家造りに向き合わなければいい家造りはできないのだと痛感しました。
何十年と暮らした時に、お客様から「この家でよかった」と思っていただけることを願い、これからも無理のない家造りに情熱を燃やしてまいります。